ポンちゃんの「本好きのささやかな愉しみ」

日々のささやかな愉しみの備忘録です。

旅館「洋々閣」 ~ 温故知新の美学 ~

世界的な椅子のコレクター・永井敬二氏は、九州・唐津の老舗旅館「洋々閣」女将・大河内はるみさんの従兄妹です。

 

唐津はかつて大陸との交易の拠点だった場所。太閤秀吉が遠く朝鮮半島を睨んだ肥前名護屋城も、唐津に所在します。

往時、朝鮮半島から連れてきた陶工には、この地で製作をした者も多くいました。

当時彼らが制作した陶器の中には「古唐津」として、現在まで名品として伝わるものもあります。

 

「洋々閣」は大正時代に建てられた伝統的な日本建築ですが、どこかモダンな雰囲気を感じるのは、椅子のコレクターとして知られるデザイナー・永井敬二氏のモダンな感覚によって改装されている部分もあるからでしょう。

改装を担当しているのは、永井敬二氏と親しい建築家・柿沼守利氏。

僕が「洋々閣」を知ったのは、料理や旅館のエッセイストとしても知られる京都在住の歯科医・柏井壽氏の著書によります。
もちろん、当時は永井敬二氏も柿沼守利氏も、知りませんでした。

以前「洋々閣」に宿泊したときは、玄関横のラウンジの居心地が良くて、入浴後ずっと飲み物を片手に、読書を続けました。

ラウンジに置かれている椅子は、剣持勇氏のラタンチェア。
「洋々閣」のラウンジが、永井敬二氏と柿沼守利氏のモダンな美意識に貫かれていることが、ここでも分かります。

「洋々閣」と言えば、もちろん「隆太窯」の中里隆、太亀父子の器を味わう宿であり、主人夫婦、支配人、そして熟達の仲居さんのホスピタリティに身を委ねる宿です。

僕が泊まった部屋には、能書家としても知られた維新の元勲・「蒼海」副島種臣伯の達筆の書が飾られており、幕末・明治の肥前の歴史を偲ぶことができました。
と思いきや、廊下には池波正太郎氏に親炙したことで知られるエッセイスト・「鉢山亭」佐藤隆介氏の書が。
重すぎず、軽すぎず。
ここでも重厚な和と、モダンの絶妙なバランスが心地よかったです。

佇まいも、ホスピタリティも、ただ旧きを守るだけではなく、新陳代謝し、モダンな風を吹き込むことにより、その価値を永く守り続けることができるのだと思います。

 

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